とりまかし読書記録

読んだ本の感想や書評を掲載していきます。

秋葉忠利『数学書として憲法を読む: 前広島市長の憲法・天皇論』法政大学出版局、2019年

著者は数学者から政治家へ転身したという異色の経歴を持つ。憲法を「数学書」として読むという発想は、数学者としての訓練を受けた著者の経歴から生まれたのだと言えるだろう*1。数学書として憲法を読む: 前広島市長の憲法・天皇論作者:忠利, 秋葉法政大学出…

【書評】渡邉有希乃『競争入札は合理的か』(勁草書房)

国や地方自治体などが公共工事を発注する際には、事業者を選ぶためにオークション(競争入札)を実施する。出品者が複数の買手を相手にするオークションとの対比で、複数の売手が参加する公共工事入札は「逆オークション」とも呼ばれる。競争入札は合理的か:…

スザンナ・キャラハン『なりすまし』亜紀書房

著者には脳炎を精神病と誤診された過去がある。危うく精神病棟に移送されかけたが、別の医師が脳炎を見抜き、事なきを得た。なぜ簡単に誤診が起きてしまうのか? 精神病とはいったい何なのか? 著者は自身の体験から、こう問い続けた。脳疾患と精神疾患の境目…

State funeral is all pain and no gain.

Public opinion is divided on Abe's state funeral. I am opposed to the state funeral. Leaving aside political ideology, I feel anger at the current administration for creating an issue that divides opinion. Almost any policy rarely reaches …

Who is in a position to do it?

There is a phrase that Japanese politicians favor using. That is, "I am not in a position to do it. In 2017, then-Prime Minister Abe was suspected to have extended facilities for establishing a new faculty at Kakei Gakuen. The school's pre…

The Boundary Between Murder and Terrorism

After the shooting of former Prime Minister Abe, many politicians and media outlets provided the following statement: "We must not succumb to despicable terrorism." However, is Mr. Abe really a victim of terrorism? What separates murder fr…

Is the Killing of Former Prime Minister Abe a Challenge to Democracy?

Former Prime Minister Abe was shot during an election speech and died later that day. The shooter was seized and arrested on the spot. Killing a person, regardless of the reason, is never acceptable. I strongly hope that the perpetrator wi…

孫崎享『戦後史の正体』(戦後再発見双書)創元社

「戦後再発見」双書のシリーズ1冊目。「戦後史」は文字通り、第2次世界大戦以後の歴史という意味だが、本書が焦点を当てるのは「日本外交」だ。「日本は米国に従属する」という米国の方針の下、米国は戦後の日本外交に関する絶大な影響力を持ち続けた。こう…

マンスキー『データ分析と意思決定理論』ダイヤモンド社

政策には分析と意思決定という2つのステージがある。専門のアナリストが政策を分析・評価し、それに基づいて政治家が政策を決定する。政策は景気対策かもしれないし、感染症対策かもしれない。いずれにせよ「理想的な世界」では最も有効性の高い政策が選ばれ…

ドン・クリック(上京恵)『最後の言葉の村へ』(原書房)

「言葉がどのように消えるのか」を調べるために、人類学者である著者が選んだのはパプアニューギニアにあるガプンという小さな村だった。著者は1985年から2014年まで7回、延べ3年間をこの村で過ごし、村の言葉であるタヤップ語が消えゆく様を目の…

津川 友介『世界一わかりやすい 「医療政策」の教科書』医学書院

本書の目次には「医療経済学」「医療経営学」「医療倫理学」といった見出しが並び、「医療政策学」が分野横断的な学問であることが読み取れる。分量でいうと「医療経済学」(1章)と「統計学」(2章)で全体の60%を占めるので、この2つが大きな柱だというこ…

吉田敏浩『日米戦争同盟』河出書房新社

2010年代に入ってから日本ではきな臭い動きが続いている。市民の知る権利を侵害し、監視社会へとつながる恐れのある特定秘密保護法が2013年12月13日に成立した。平和主義を体現していた武器禁輸を廃止し、2014年4月1日に「防衛装備移転三…

アンドリュー・リー(上原裕美子)『RCT大全』みすず書房

「エビデンスに基づく」というフレーズが流行り言葉になって久しい。政策や意思決定の効果を数量的に検証して得られた結果が「エビデンス」だが、数量的な検証と言ってもさまざまだ。本書のタイトルにもある「RCT」はランダム化比較試験の略で、良質なエ…

前泊博盛(編著)『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』創元社(「戦後再発見」双書2)

「治外法権にもとづく不平等協定が、現在の日本における混迷の根源である。」本書は「戦後再発見」シリーズの2冊目で、「日米地位協定」の内容や問題点をQ&A形式で解説するPART1と、外務省で地位協定の運用マニュアルとして書かれたという機密文書…

「自動延長」という発明(後編)

「自動延長」という発明(前編)torimakashi.hatenablog.jp 自動延長について「あり」「なし」のどちらを初期設定として提示するかは一見すると些細な違いに感じるのだが、初期設定の違いが出品者による選択率を左右することは十分に考えられる。2017年…

「自動延長」という発明(前編)

オンラインオークションでは出品時に入札期限を設定する。ヤフオク!に出品したことがある人はよく知っているだろう。例えば日にちと時間帯を「7月31日21時」というように選ぶと、システムが自動的に「分」を割り振って、オークションの終了時刻が「2…

ダニエル・オーフリ 『患者の話は医師にどう聞こえるのか』みすず書房

本書は医師と患者のコミュニケーションの重要性を訴える本だ。著者の主張を一言で表せば「コミュニケーションは医療に役立つ」。その主張には3つの側面がある。①「医師が話を聞いてくれない」という、患者にとって最大の不満が消え、医療に対する患者の満足…

吉田敏浩『「日米合同委員会」の研究』創元社(「戦後再発見」双書)

日米地位協定については何となく知っている人も多いだろう。米軍人による事件・事故が起きるとその名前を見聞きする機会が増える。しかし地位協定の切り離せない「日米合同委員会」については存在すら知らない人の方が多いかもしれない。しかし民主主義を軽…

学生のレポートと政治家の似ているところ

ここだけの話、小論文やレポートの採点を苦痛に感じることが多い。出来るだけ避けたいとも思う。答案を注意深く読むのにはかなりの忍耐力が必要で、採点するのに長い時間がかかる。「それが仕事なのだろう」というお叱りはもっともで反論の余地はない。それ…

山本敦久『ポスト・スポーツの時代』(岩波書店)

このところオリンピックが気になる。何もこれは自分だけではないだろうと思うが、オリンピックは今後どうなっていくのだろうなどと考えながら手に取ったのが本書だ。タイトルだけ見てまさにぴったりと感じたのだが、内容は期待していた物とだいぶ違った。概…

小倉美惠子『諏訪式。』(亜紀書房)

新作映画のロケで諏訪を訪れた著者が、諏訪に何か恩返しをしたいという思いでまとめたのが本書である。著者を魅了する諏訪とはどのような土地なのか、何がそこまで著者を惹きつけるのか。諏訪の企業や人、風土について諏訪への愛情あふれる筆致で描き出して…

「アサヒビアリー」ビールとノンアルコールビールのはざま

電車の中吊り広告を見て、これはと思った。目に飛び込んできたのは「ビアリー」という新商品の広告で「微アルコール」を謳っている。アルコール度数0.5%はビールのちょうど10分の1ほど。ビールという英単語「Beer」の語尾に「y」がくっ付いた商品名に「…

スーパーキャッシュを知っていますか?

銀行口座を整理しようと思い、しばらく使っていない三菱UFJ銀行の口座を解約してきた。この口座を開設したのは大学3年の春なので実に20年間お世話になったことになる。ただし開設した当時の銀行は三和銀行だった。なぜ20年以上も前のことを覚えてい…

オンラインでアートを買う!オークションを利用する3つの方法

絵でも見たいなと思って足を運ぶのは美術館でなくて百貨店のアートブースが多い。なぜかと言うと自分の気に入った作品を買えるから。もちろん財務省(財布)とご相談しての話。美術館で巨匠の名品をじっくりと鑑賞するのは間違いなく心の洗濯になる。でも値…

結城紬生産と家族構造の関係:湯澤規子『在来産業と家族の地域史』(古今書院)

着物を好きになって色々と調べていると気になるのが「結城紬」。結城市(茨城県)と小山市(栃木県)で織られる伝統的な絹織物で、伝統的な生産技術は国の重要無形文化財に指定されている。月並みな感想なのだが実際に着てみるとまずは軽さに驚く。そして暖…

ヤドカリたちの住宅難

小学生の頃、ヤドカリを「ヤドカニ」だと思っていた。漢字でどう書くかなどまったく意識していなかったけれど、たぶん頭には「宿蟹」があったのだろう。エビやカニと同じ十脚目の生き物なので、まったくの的外れというわけでもないかもしれない。もっともい…

トマス・モア(平井正穂)『ユートピア』岩波文庫

「ユートピア」という言葉は、「空想上の」あるいは「理想的な」という意味で使うことが多いだろう。トマス・モアの造語であるユートピアはギリシア語で「どこにも無い」を意味する。表題の『ユートピア』はどこにも無い国なのである。ユートピア (岩波文庫 …

誰のワクチン接種が優先されるのか

新型コロナウイルスの1年 2020年の最も大きな出来事は新型コロナ感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的な大流行)だろう。12月までに世界で死者は160万人を超え、日本でも日々、感染の第3波の様子が報じられている。経済活動への影響もまた深刻だ。各国…

グレッグ・ボグナー、イワオ・ヒロセ(児玉 聡、他)『誰の健康が優先されるのか――医療資源の倫理学』岩波書店

どのように医療を配給するべきか?「医療の配給」は、医療資源を振り向ける治療方法や医療サービスを提供する患者集団の「選択」を意味する。つまり「どの抗がん剤を健康保険の適用対象に加えるか」や「インフルエンザのワクチンを誰に投与するか」を決める…

カビール・セガール(小坂恵理)『貨幣の「新」世界史』早川書房

本記事ではカビール・セガールによる『貨幣の「新」世界史』の内容を紹介して、感想を書いておこう。貨幣の「新」世界史──ハンムラビ法典からビットコインまで (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)作者:カビール セガール発売日: 2018/10/04メディア: 文庫本書…