とりまかし読書記録

読んだ本の感想や書評を掲載していきます。

オンラインでアートを買う!オークションを利用する3つの方法

絵でも見たいなと思って足を運ぶのは美術館でなくて百貨店のアートブースが多い。なぜかと言うと自分の気に入った作品を買えるから。もちろん財務省(財布)とご相談しての話。美術館で巨匠の名品をじっくりと鑑賞するのは間違いなく心の洗濯になる。でも値札と見比べながらアート作品を眺めるのは格別に楽しい。

言うまでもなく値札の付いたアート作品を見られるのは百貨店に限らない。例えば画廊、ギャラリーはアート作品を売る所なので、当然どの作品にも値段が付いている。もっとも尋ねるまではベールに包まれたままかもしれないけれど。こんな時、値段を尋ねたら買わないといけないんじゃないかという不合理な恐怖感がプレッシャーとなって、結局訊けず仕舞いということもしばしばある。そしてギャラリーに足を踏み入れる前からその恐怖感を合理的に予想して、せっかく来たのに入り口で回れ右ということも珍しくない(店構えで決まる。中が見えないとびびる)。

もう一つの代表格がオークション。実際に参加したことはなくてもテレビやオンラインの動画で様子を見たことがある人は多いだろう。これも会場に足を運ぶとなるとやや腰が引けてしまうかもしれないが、今はオークションのオンライン化が進み、オンラインで入札に参加できるオークションも多い。これならだいぶ気軽だ。

ところで「オークションのオンライン化」と言われると、ヤフオク!などのいわゆるオンラインオークションを思い浮かべるかもしれない。実際にはオンラインで参加できるオークションには色んな種類がある。これはオークションへの参加方法や入札の仕方が運営会社ごとに異なるという意味ではなく、まったく別物と考えられるオークションの種類が少なくとも3つあるという意味だ。具体的には

  1. オンラインだけで品物が取引されるオークションサイト(ヤフオク!など)。いわゆるオンラインオークション。
  2. 「オフライン」でオークションを運営する会社が提供するオンラインオークションのサービス(サザビーズのオンライン・オンリー・オークションなど)
  3. リアルタイムでオンライン入札が可能な「オフライン」のオークション(国内外のオークション会社)

順番に見ていこう。

文脈を抜きにしてオンラインオークションという言葉から真っ先に思い浮かぶのはヤフーやイーベイ(eBay)が運営するオークションサイトだろう(①)。国内のオンラインオークションはヤフオク!の独壇場である(が、フリマという強力なライバルがいてEコマース市場の中では近年押され気味のようだ)。ヤフオク!にも「アート」というカテゴリがあって、実際にあふれんばかりのアート作品が出品されている。ぱっと見た限り、売りに出されている価格帯はさほど高くない。例えば100万円以上の高額商品はあまり見あたらないし、出品されていても落札されることはほとんどないのじゃないかという印象がある。

個人的にもよほど自分がよく知っている作品じゃない限り、ヤフオク!でアートを買おうとは思わない。特に高いお金を払って買うのにはためらいがある。根本にあるのは取引にまつわる不安感だ。偽物だったらどうしよう、疵などがあったらどうしよう、作品が送られてこなかったらどうしよう、などなど。取引の匿名性も不安を高める。

ヤフーは売り手と買い手を結びつけて取引の場(プラットフォーム)を提供するが、成立した取引そのものに対しては基本的に関与しない。Q&Aで実際に「成立した取引についてヤフーはいっさい責任を負いません」と明言している。買い手の立場からすると何かトラブるが生じた際にどこにも問題を持ち込めないという懸念がある。公平のために言っておくと、個人的にいままでヤフオク!で700回くらい売ったり買ったりしてきた中でトラブルが起きたことは一度もない。商品説明にはなかった疵や汚れが品物に付いていたり、あるいは自分が売った品物に首を傾げたくなるクレームが付いたこともあったけれど、メッセージやお金のやりとりでいずれもすぐに解決した。取引結果を星の数で評価するフィードバック制度や買い手が品物を受け取るまで売り手に入金されないといった、「ずる」を防ぐための仕組みがヤフオク!には備わっていてそれらはうまく機能しているように見える。それでもやっぱりアート作品、特に高額のアート作品を購入するのには二の足を踏んでしまう。

サザビーズが運営するオンライン・オンリー・オークション(②)はカテゴリとしては①と同じオンラインオークションに含まれる。つまりここではサザビーズがアート作品を売買するプラットフォームを提供しているということだ。けれども①との大きな違いがある。それは、サザビーズが美術品を扱う専門家集団で(ワインもアートに含めることにしよう)、真贋を来歴まで含めて鑑定しているという点だ。もちろん作品の状態も入念にチェックする。そのうえでサイトに掲載する写真や説明文を専門のスタッフが準備してくれる。つまり単に場所を貸しているだけではなく、もっと行き届いた専門的なサービスを提供しているのだ。それでもやっぱりオンラインはオンライン、実物を事前にじっくりと見ることもできないし、会場で感じて得られる熱気や「情報」がここには欠けている。クリスティーズジャパン社長の山口桂氏が「また50億の作品は、流石にオンラインオンリー(会場でのオークションがないセール)では売れません。」と言うのも頷ける(「クリスティーズジャパン社長・山口桂に聞くアートマーケットの現状と課題」『美術手帖』2020年3月1日インタビュー)。


最後はいわゆるオークションのオンライン化、「オフライン」の会場で開催されているオークションにネット経由で入札できるというスタイルだ(③)。国内外の多くのオークション会社が開催するセールでこの入札方式が可能となっている。インターネットのおかげで生まれた入札方式に見えるし文字どおりの意味では実際に正しいのだが、会場に足を運べない買い手が電話で入札したり、競売人や競売会社の担当者に入札限度額を伝えておいて代わりに競ってもらう委託入札という方法は昔から存在していた。特に電話入札はセールの進行状況がリアルタイムで分かるので、ネット入札とほとんど変わらないと言えるかもしれない(もちろんセールのネット配信ができる時代であることを思えば、優位さで電話入札がネット入札に及ばないことは認めるにやぶさかではない)。原型が昔からあったとは言え、オンライン入札対応という意味のオンライン化がオークション市場を盛り上げているのは間違いないようだ。『東洋経済』2021年2月20日号の特集記事では世界の大手オークション会社の下期の売上高を押し上げた要因としてオンライン化があると分析している(「7兆円アート市場の狂騒」)。

ともあれ、オンラインで参加できるオークションが増えてアート作品を買うための敷居が下がってきたのは事実だ。この機会にぜひアートを観る楽しみにアートを買う楽しみを加えてみるなんてどうだろうか。