とりまかし読書記録

読んだ本の感想や書評を掲載していきます。

読書メモ・書評

孫崎享『戦後史の正体』(戦後再発見双書)創元社

「戦後再発見」双書のシリーズ1冊目。「戦後史」は文字通り、第2次世界大戦以後の歴史という意味だが、本書が焦点を当てるのは「日本外交」だ。「日本は米国に従属する」という米国の方針の下、米国は戦後の日本外交に関する絶大な影響力を持ち続けた。こう…

マンスキー『データ分析と意思決定理論』ダイヤモンド社

政策には分析と意思決定という2つのステージがある。専門のアナリストが政策を分析・評価し、それに基づいて政治家が政策を決定する。政策は景気対策かもしれないし、感染症対策かもしれない。いずれにせよ「理想的な世界」では最も有効性の高い政策が選ばれ…

ドン・クリック(上京恵)『最後の言葉の村へ』(原書房)

「言葉がどのように消えるのか」を調べるために、人類学者である著者が選んだのはパプアニューギニアにあるガプンという小さな村だった。著者は1985年から2014年まで7回、延べ3年間をこの村で過ごし、村の言葉であるタヤップ語が消えゆく様を目の…

津川 友介『世界一わかりやすい 「医療政策」の教科書』医学書院

本書の目次には「医療経済学」「医療経営学」「医療倫理学」といった見出しが並び、「医療政策学」が分野横断的な学問であることが読み取れる。分量でいうと「医療経済学」(1章)と「統計学」(2章)で全体の60%を占めるので、この2つが大きな柱だというこ…

吉田敏浩『日米戦争同盟』河出書房新社

2010年代に入ってから日本ではきな臭い動きが続いている。市民の知る権利を侵害し、監視社会へとつながる恐れのある特定秘密保護法が2013年12月13日に成立した。平和主義を体現していた武器禁輸を廃止し、2014年4月1日に「防衛装備移転三…

アンドリュー・リー(上原裕美子)『RCT大全』みすず書房

「エビデンスに基づく」というフレーズが流行り言葉になって久しい。政策や意思決定の効果を数量的に検証して得られた結果が「エビデンス」だが、数量的な検証と言ってもさまざまだ。本書のタイトルにもある「RCT」はランダム化比較試験の略で、良質なエ…

前泊博盛(編著)『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』創元社(「戦後再発見」双書2)

「治外法権にもとづく不平等協定が、現在の日本における混迷の根源である。」本書は「戦後再発見」シリーズの2冊目で、「日米地位協定」の内容や問題点をQ&A形式で解説するPART1と、外務省で地位協定の運用マニュアルとして書かれたという機密文書…

ダニエル・オーフリ 『患者の話は医師にどう聞こえるのか』みすず書房

本書は医師と患者のコミュニケーションの重要性を訴える本だ。著者の主張を一言で表せば「コミュニケーションは医療に役立つ」。その主張には3つの側面がある。①「医師が話を聞いてくれない」という、患者にとって最大の不満が消え、医療に対する患者の満足…

吉田敏浩『「日米合同委員会」の研究』創元社(「戦後再発見」双書)

日米地位協定については何となく知っている人も多いだろう。米軍人による事件・事故が起きるとその名前を見聞きする機会が増える。しかし地位協定の切り離せない「日米合同委員会」については存在すら知らない人の方が多いかもしれない。しかし民主主義を軽…

山本敦久『ポスト・スポーツの時代』(岩波書店)

このところオリンピックが気になる。何もこれは自分だけではないだろうと思うが、オリンピックは今後どうなっていくのだろうなどと考えながら手に取ったのが本書だ。タイトルだけ見てまさにぴったりと感じたのだが、内容は期待していた物とだいぶ違った。概…

小倉美惠子『諏訪式。』(亜紀書房)

新作映画のロケで諏訪を訪れた著者が、諏訪に何か恩返しをしたいという思いでまとめたのが本書である。著者を魅了する諏訪とはどのような土地なのか、何がそこまで著者を惹きつけるのか。諏訪の企業や人、風土について諏訪への愛情あふれる筆致で描き出して…

結城紬生産と家族構造の関係:湯澤規子『在来産業と家族の地域史』(古今書院)

着物を好きになって色々と調べていると気になるのが「結城紬」。結城市(茨城県)と小山市(栃木県)で織られる伝統的な絹織物で、伝統的な生産技術は国の重要無形文化財に指定されている。月並みな感想なのだが実際に着てみるとまずは軽さに驚く。そして暖…

トマス・モア(平井正穂)『ユートピア』岩波文庫

「ユートピア」という言葉は、「空想上の」あるいは「理想的な」という意味で使うことが多いだろう。トマス・モアの造語であるユートピアはギリシア語で「どこにも無い」を意味する。表題の『ユートピア』はどこにも無い国なのである。ユートピア (岩波文庫 …

グレッグ・ボグナー、イワオ・ヒロセ(児玉 聡、他)『誰の健康が優先されるのか――医療資源の倫理学』岩波書店

どのように医療を配給するべきか?「医療の配給」は、医療資源を振り向ける治療方法や医療サービスを提供する患者集団の「選択」を意味する。つまり「どの抗がん剤を健康保険の適用対象に加えるか」や「インフルエンザのワクチンを誰に投与するか」を決める…

カビール・セガール(小坂恵理)『貨幣の「新」世界史』早川書房

本記事ではカビール・セガールによる『貨幣の「新」世界史』の内容を紹介して、感想を書いておこう。貨幣の「新」世界史──ハンムラビ法典からビットコインまで (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)作者:カビール セガール発売日: 2018/10/04メディア: 文庫本書…

ファストファッションとスローファッション。『ファストファッション』を読んで考えたこと

2年ほど前に買ったまま「積ん読」だった『ファストファッション:クローゼットの中の憂鬱』(エリザベス・L・クライン、春秋社)を読み終えた。ファストファッションに代表される格安ファッションが地球環境に与える悪影響や、製造現場の劣悪さなどは色んな…

ルシオ・デ・ソウザ、岡美穂子『大航海時代の日本人奴隷』(中公叢書)

奴隷貿易と聞くと、ヨーロッパやアメリカへアフリカ人を運んだ「三角貿易」が思い浮かぶ。つまり「奴隷=黒人」というイメージである。ところが16世紀中葉から17世紀中葉の100年間、日本人も奴隷としてアジア各地や南米、ポルトガルへ運ばれていたのだという…

終わりなき文化大革命-楊海英『墓標なき草原(上)(下)』現代岩波文庫

文化大革命とはいったい何だったのか――内モンゴルに住むモンゴル族の視点からこの問いに答えたのが本書である。その答えをひと言で表せば、文化大革命とは虐殺だった。内モンゴル生まれの著者による本書は、文化大革命とその前後の政治弾圧を生き延びた当事…