とりまかし読書記録

読んだ本の感想や書評を掲載していきます。

ルシオ・デ・ソウザ、岡美穂子『大航海時代の日本人奴隷』(中公叢書)

奴隷貿易と聞くと、ヨーロッパやアメリカへアフリカ人を運んだ「三角貿易」が思い浮かぶ。つまり「奴隷=黒人」というイメージである。ところが16世紀中葉から17世紀中葉の100年間、日本人も奴隷としてアジア各地や南米、ポルトガルへ運ばれていたのだという(南蛮貿易)。『大航海時代の日本人奴隷』を読んで、この事実にまずは驚いた。もっとも、本書の「緒言」によれば、日本人奴隷の存在はだいぶ前から学会では知られていたようだ。 

 

大航海時代の日本人奴隷 (中公叢書)
 

 

ひと口に奴隷と言っても実態は様々だったらしい。炎天下で過酷な労働を強いられるといったステレオタイプ的な奴隷ではなく(やはりプランテーションで強制労働させられる黒人奴隷のイメージがある)、家事をこなす家事奴隷や召使い、従者、あるいは簡単な雑用以外には仕事もないような「奴隷」なども多かった。また、子供の奴隷には過酷な労働を与えず、自身の子供の遊び相手をさせた。養子にする目的で子供を購入することもあったという。とは言え、多くの奴隷にとって彼らの境遇が安寧なものだったわけではない。例えば所有者を明確にしたり懲罰の目的で、ポルトガルや南米では奴隷に烙印を押すという習慣があった。

 

本書は航海日誌、遺言状、訴訟記録など多くの資料に基づいて、アジア、南米、ヨーロッパの地へ奴隷として渡った日本人の姿を再構築している。奴隷貿易キリスト教の布教と密接に関係していて、奴隷となった日本人にもフアン・アントンとかドミンゴ・ロペスとかの洗礼名が付く。膨大な資料の中から洗礼名で書かれた日本人に関する記述を確かめていくだけでも大変な作業だろうと思う。ポルトガル人の考える「奴隷」と日本人の考える「奉公人」は似て非なるもので、当人は奉公人のつもりなのに奴隷として取引されてしまい、「自分は本来ならば奴隷ではない」と訴え出る日本人奴隷が多数いたなど、本書は興味深い記述であふれている。