とりまかし読書記録

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誰から手数料を取るべきか?競売会社にとっては些末な問題である理由

多くの場合、競売会社は委託を受けて品物をオークションで売る。品物が無事に落札されたら、委託者(売手)と落札者(買手)は規程の手数料を競売会社へ支払う。手数料は落札価格に対する一定の比率(パーセンテージ)で設定されていることが多い。競売会社の収益は大部分がこれらの手数料であり、誰から幾らの手数料を徴収するのかは競売会社にとって重要な問題のはずだ。

 

手数料の取り方は大まかに言って3通りである。売手と買手の両方から徴収する「両手取引」、そしてどちらか一方にのみ手数料を請求する「片手取引」である。美術品オークションでは両手取引が一般的でだが、それ以外の業界では売手に対する片手取引が多い。また、両手取引にしても、売手と買手に対して設定された手数料率には大きなばらつきがある。これは一体どうしてなのか?

 

2020年8月に『マネジリアル・デシジョン・エコノミクス』誌に発表した論文では、この疑問をゲーム理論的に考察した。論文のメッセージはこうだ。競売会社に可能な限り高い利益をもたらしてくれる手数料率には無数の組み合わせがある。つまり、競売会社にとって、手数料を誰から徴収するのかは重要な問題ではない。

 

議論のポイントは、手数料に対する売手と買手の戦略的な反応にある。まずは買手に注目してみよう。買手は落札価格に手数料を上乗せして支払う必要がある。手数料率が高いほど合計の支払い金額は上がる。ところが理論的に言って、手数料が買手にとって負担となることはない。なぜか?買手は単に手数料の分だけ競り値を下げるからである。例えば手数料がなければ1万円をビッドするとしよう。もし手数料率が10%なら、合理的な買手はビッドを9千90円に下げる。最終的な支払いはどちらも1万円である。

 

そして、買手の反応を正確に読み込んだ売手は、競り値の下げ分に応じて低い最低落札価格を付けるという行動に出る。最低落札価格を調整することで、オークションの売上を一定に保つことができる(しかし売手手数料が上がればその分だけ売手の取り分は減る)。売手による最低落札価格の調整と買手による競り値の調整、この2つの調整をつうじて競売会社の収入が一定に保たれることを論文は示している。

 

実際にオークションの利用手数料には大きなばらつきがある訳で、論文の議論はこの現実の状況とうまく合っている。けれども「なぜ、そのようなばらつきが生じるのか」という疑問にはうまく答えられていない。競売会社もまさか適当に決めているわけではないだろう。何か設定基準があるはずだ。また、美術品オークションをのぞいて、大方のオークションで売手に対する片手取引が行なわれている理由も不明なままだ。論文ではいくつか仮説を提示しているものの、これらは今回の議論から直接導かれたものではない。この論点は今後改めて考察する必要がある。